はじめに

ここに掲載の「國語問題論爭史」は、國語問題の歴史的資料を正統派の立場から集め、解説を述べたものと言へよう。「論爭史」と銘打つてゐるが、國語問題で眞に論爭と呼び得るものは、福田恆存と金田一京助との論爭をもつて掉尾としうるのでは、以後は、表意派表音派それぞれの立場から、自分の考へを述べる程度のものに終はつてゐる。 本書の舊版が刊行されたのは昭和三十七年十二月、著者は、本協議會草創期に主事をつとめた土屋道雄氏である。理事の福田恆存氏の強い助力を受けたこともあつて、國語問題に關する著作としては好著との定評を受けてきた。

平成十七年一月、前著以來四十年の空白を埋めるべく、土屋道雄氏の筆になる増補版が玉川大學出版部より出版された。八章と九章が増補部分である。 既に平成十二年に、土屋道雄氏の許諾を得て、本書舊版の、本協議會のホウムペイジへの上架を始めてゐたが、今囘更に新版も載せられることとなつた。 日本の言語問題、國語問題についての知見を得るために、本問題について思索を深める際に、更には意見開陳の文章を書かむとする折にも、本書は多大の貢獻を果すと信じられるので、是非折をりに目を通していただきたい。 本書のインターネット上での復刻にあたつては、著者及び福田敦江夫人のご承諾を得てをり、さらに新潮社、及び玉川大學出版部の合意も受けてゐる。

本文は元々、歴史的假名遣及び漢字制限以前の正漢字を使つてゐるが、コンピュータ上では漢字は、必ずしも望み通りのものではないことを、御諒解いただきたい。 ダウンロードされた後、「編輯→すべて選擇」でフォントを「文字鏡契冲」に切り換へると、大部分が正漢字の表記になる。文字鏡契冲」にない漢字は、「今昔文字鏡」フォントを導入すれば正漢字となし得ることを附記させていただく。

平成二十一年九月   谷田貝 常夫(事務局長)
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