平成二十三年第四回東京都議會定例會會議録より

 ○議長(和田宗春君) 九十四番古賀俊昭君。
    〔九十四番古賀俊昭君登壇〕〔議長退席、副議長着席〕

○九十四番(古贊俊昭君)武道の必修化について伺ひます。
  (中略)ちなみに、武道を學ぶことをけいごといひ、練習とはいひません。{古・いにしへ}を{稽・かんが}へると書いて「稽古」、野球やサッカー、ボクシング等は練習ですが、武道はけいこ、もしくは修練、修行でせう。(中略)

 次に、都立圖書館の電子化について伺ひます。
 今、都立中央圖書館では、企畫展「新しい圖書館のカタチ電子書籍を體驗しよう」が開催されてゐます。これは都立圖書館が電子圖書のネット配信を行ふ時代の到來を豫感させるものですが、あらかじめ實施の前提とすべき方針について述ベてみます。

 江戸時代中期から幕末明治にかけて西洋の進んだ文物に觸れた進取の氣性に富む人の中には、西洋文字アルファベットは、簡單な宇形で二十六文字しかないのに比べ、自分たちの漢字は、數が多くて、複雜難解で進歩や勉學の弊害になってゐると考へました。新井白石や福澤論吉は、漢字制限を説き、一圓切手の肖像で知られる日本近代郵便の父、前島密は、漢字廢止を唱へて、平假名を用ゐるべきと主張しました。これらはすべて、外國に追ひつくには、わかりやすい書き言葉で教育しなければならないとの思ひが強かったのでせう。

 戰後敗戰の衝撃から、讀賣報知新聞は、社説で、漢字廢止、ローマ字採用を掲げ、志賀直哉はフランス語採用を主張しました。この混亂を假名文字・ローマ字論者は好機と見て、昭和二十一年の内閣告示、漢字制限現代假名遣ヘと改惡を成功させ、國語破壞の潮流は今日に續いてゐます。

 その端的な例として、五十音圖のわ行の「ゐ」と「ゑ」を空白にした穴あき五十音圖があります。日本の誇る古典や?外や漱石を原文で堪能できなくなりました。きわめつきは、國旗・國歌法の國歌君が代の歌詞「いわお」です。君が代の歌詞は、平安朝前期千百年以上前、我が國最初の敕撰和歌集である古今和歌集にある和歌であり、法律上も、現代假名遣ではなく、正假名遣「いはほ」か、漢字「巖」と正漢字で表記すべきなのです。なぜなら、昭和六十一年の内閣告示は、現代假名遣は現代文に、國の歴史や文化にかかはりを持つものは歴史的假名遣を尊重するとなってゐるのですから、當然のことです。國旗・國歌法は速やかな改正が必要です。

 かかる國語をめぐる現状に危機感を抱く人は多く、猪瀬副知事が進める都廳内での言葉の力再生、言語力檢定もその現状認識のあらはれだと思ひます。今申上げたことを前提に伺ひます。

 まづ、都立圖書館の電子書籍化の導入について、現状と今後の計畫についてお尋ねいたします。
  次いで、將來、都立圖書館が書籍の電子化を實施する場合、特に戰前の文學作品については、作家獨自の語法や作風を尊重する觀點から、正假名遣、歴史的假名遣を底本にして、當時の原文を忠實に守るべきと考へますが、見解はいかがでせうか。

 質間の最後に、拉致問題と都政について意見を申し上げます。
 (中略)

〔知事石原愼太郎君登壇〕
〇知事(石原愼太郎君)古賀俊昭議員の一般質問にお答へいたします。

 武道についてでありますが、武道は、一見地味ではありますけれども、凛然とした、颯爽とした競技であると思ひます。また一面、ある意味では哲學的でもあると思ひます。この武道に關する練習を稽古といふのは、やはり完成された武道の妙技といふものは、見事な一つの樣式、形式になってゐるわけでありまして、さういふ點では、華道とか茶道の稽古にもつながるものがあるんぢやないかと思ひます。(中略)
 他の質問についでは、教育長から答弁します。

〔教育長大原正行君登壇〕
○教育長(大原正行君)七點のご質問にお答へいたします。(中略)
 次に、都立圖書館の電子書籍の導入に關する現状と今後の計畫についてでございます。

 電子書籍は、讀者がゐながらにして本の内容を直接閲覽できる媒體であり、紙の書籍と比べて絶版の可能性も少なくなることから、都立圖書館が電子書籍を扱ふ場合、圖書館としての役割を新たに檢討し、從來とは全く異なる利用の仕組みを構築する必要が生じると思はれます。

 今年は電子書籍元年ともいはれ、さまざまな讀書端末が開發され、市場に出囘つてきてをりますが、書籍の配信方法については、フォーマットや機器の互換性に關し、各企業が試行錯誤してゐる状況であり、著作權の處理方法もいまだ定まったルールが確立されてゐないなど、多くの課題がございます。
  また、出版されているコンテンツは分野に偏りがあるほか、その市場も紙の書籍と比べますといまだ小規模であり、電子書籍の導入に關しては、かうしたさまざまな課題の推移を愼重に見きはめる必要がございます。

 現在、都立圖書館協議會において、デジタル時代の都立圖書館像をテーマに、來年三月の提言取りまとめに向けて、電子書籍の取り扱ひも含めた討議を進めてをりまして、都教育委員會は、その提言内容を踏まへまして、都立圖書館における電子書籍の收集、提供のあり方について檢討してまゐります。

 最後に、都立圖書館が電子書籍化を進める場合の歴史的假名遣の扱ひについてでございいます。
  昭和六十-年七月の内閣訓令により、現代假名遣が各行政機關における表現のよりどころとされましたが、一方で、同日附の告示の前書きでは、歴史的假名遣が我が國の歴史や文化に深いかかはりを持つものとして尊重されるべきことはいふまでもないと書かれてをります。都立圖書館は、都民の調査研究活動を支援する圖書館として、國内外で出版された書籍を廣範圍に收集し、都民に公開をしてをります。紙媒體、電子媒體を問はず、出版された書籍をそのまま保存し、利用者の閲覽に供することが都立圖書館の役割であり、書籍の電子化といふ名目において假名遣を變へるといふことはございません。



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