Q3 「正かなづかい」と勝󠄁手に言っているようだが、どういうつもりなのか。なにが「正」なのか、どこが正しいのか。

A3 ふつう一般の呼稱である歷史的假名遣󠄁(「舊かなづかひ」)を、我々は「正假名遣󠄁(正かなづかひ)」と呼んでをります。

 歷史的には、藤󠄁原定家がはじめて自覺し、江戶期󠄁にいたり契冲が原理を發見し、更に宣長らによつて正當な立場を認󠄁められ、今日に至るまで全󠄁うに發展してきた「かなづかひ」を、我々は、當然ながら尊󠄁重すべきと考へ、また國語の生命力ある傳統を發展させ、子孫に繼承していかなければならないと思ふからであります。

 ただ、「歷史的」と聞くと、過󠄁去の遺󠄁物と否定的に捉へられかねませんが、英語で譬へるなら、定冠詞のつく「假名遣󠄁the orthography」と呼ぶべきものなのです。「現代」にしか通󠄁用しないと自らを限定した、いはば恣意的な一つの表音方式「現代假名遣󠄁(新かな) a modern orthography」は、呼稱からして矛楯であつて、これを國語を假名で書く場合のきまり、卽ち、「かなづかひ」と認󠄁めることはできないのです。かかる「現代かなかい」と區別するために、また國語(日本語)の正統性と論理性と將來性はここにありといふ意味で、「正かなづかひ」と呼ぶのが至當であると考へます。

 かつて太田行藏は、「正しいとは何か」といふ問ひに對して、「昔から正しいとされて來たものである」と喝破しました。我々の先逹󠄁である太田は、言葉を言ひつたへ讀みつたへることは(父祖から子孫に至る)約束なのだとして、かうも言つてゐます。「正しいかなづかひを求めるといふ根本の氣持は、その約束をかへまいとするから起󠄁るのではあるまいか」、と。

渡邊 建(評󠄁議員)

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